猫の若年性歯周病|意外と多い?!若齢でも気をつけよう猫の歯周病

猫の歯周病というと「シニア猫の病気」というイメージを持たれがちですが、実は若齢の猫でも発症することがあります。今回は、「若年性歯周病」について、分類・病態・検査・治療・予後の観点から解説します。

目次

若年性歯周病の分類

近年の論文では、この疾患群は主に以下の2つの病態として整理されています。

  • 早期発症歯肉炎(Early-Onset Gingivitis: EOG/いわゆる若年性歯肉炎)
    永久歯萌出後の若齢猫にみられる歯肉組織の炎症。発赤・浮腫・出血を伴いますが、粘膜歯肉境界を越えない限局した炎症です。
  • 侵襲性歯周炎(Aggressive Periodontitis: AP/いわゆる若年性歯周炎)
    炎症が歯肉を超えて深部歯周組織にまで進行し、アタッチメントロス、歯周ポケット形成、歯肉退縮、根分岐部露出、早期の歯の脱落を伴う状態。慢性歯周炎と比べて進行が速いのが特徴です。

以前は若年性歯肉過形成性 (juvenile hyperplastic gingivitis) という呼称も使われてきましたが、2023年の後ろ向き研究では、重度の歯肉炎を呈した症例のうち歯肉の腫脹(過形成)が認められたのは約半数(48%)にとどまり、必ずしも過形成を伴うわけではないことが示されました。そのため、著者らはヒト歯周病学における「aggressive periodontitis(侵襲性歯周炎)」という用語の方がこの疾患をより正確に表すと指摘しています。

猫の若年性歯周病の若年性歯肉過形成が疑われる口腔内写真
生後8か月齢の猫。若年性歯肉過形成(juvenile hyperplastic gingivitis)が疑われる症例。

若年性歯周病の病態

若年性歯周病(EOG/AP)の病態には、歯垢(プラーク)中の細菌に対する宿主免疫の過剰な炎症反応が関与すると考えられています。ヒトの侵襲性歯周炎に関する知見からは、環境要因・微生物叢・遺伝的要因が複合的に関わっている可能性が示唆されています。

猫のEOG/APでは、組織学的に中等度から重度の、びらん〜潰瘍性の好中球性およびリンパ形質細胞性炎症が特徴的な所見として報告されています。興味深いことに、この炎症細胞浸潤のパターンは、猫の別の重篤な口腔内疾患である「歯肉口内炎(FCGS)」の組織像と類似する点があり、両疾患の関連性について今後の研究が必要とされています。過去の後ろ向き研究では、EOGと診断された症例のうち一部がその後FCGS様の病変に進行したことも報告されています。

重度の若年性歯周炎の生後7か月齢の猫
生後7か月齢の猫。若齢にもかかわらず前歯の自然脱落が認められ、重度の若年性歯周炎が疑われました。

若齢でも歯周病は起こり得る

「歯周病=高齢猫の病気」という認識は誤りです。永久歯が生え揃う生後6ヶ月齢前後から、早ければ1歳前後で重度の歯肉炎・歯周炎を呈する猫が一定数存在します。

若齢だからと油断していると、気づいたときには歯槽骨吸収が進み、歯の動揺や自然脱落にまで至っているケースも少なくありません。「若いから大丈夫」という判断はできないということを、飼い主・獣医療関係者双方が認識しておく必要があります。

検査の重要性

「歯周病=高齢猫の病気」という認識は誤りです。EOGは永久歯萌出後まもない生後6〜8ヶ月齢前後の猫にみられることが報告されています。

UC Davisの後ろ向き研究(1997〜2022年、27症例)では、来院時の年齢の中央値は17ヶ月齢(範囲6〜36ヶ月)でしたが、診断前の臨床症状の持続期間の中央値は9ヶ月に及んでおり、病気そのものはより若い時期、すなわち永久歯が生え揃う時期から始まっていたと考えられます。つまり、飼い主や動物病院が気づいて来院する時点では、すでに発症からかなりの期間が経過しているケースが少なくないということです。

この研究では純血種が全体の41%を占めていましたが、症例数が少ないため、特定の品種との関連性について明確な結論は導けないと著者らは述べています。若齢だからと油断していると、気づいたときには歯槽骨吸収が進み、歯の脱落にまで至っているケースも報告されており、「若いから大丈夫」という判断はできないということを、飼い主・獣医療関係者双方が認識しておく必要があります。

検査の重要性

検査については、以下の項目を確認することが重要です。

  • 視診
    歯肉の発赤、腫脹、出血、過形成の有無を確認
  • 歯周プロービング
    歯周ポケットの深さ、アタッチメントロスの評価(全身麻酔下で実施)
  • 歯科X線検査(歯科用レントゲン検査)
    歯槽骨吸収の程度、歯根の状態、吸収病巣の有無を確認。視診だけでは歯周組織破壊の程度を過小評価しやすいため必須
  • 口腔内全体のチェック
    FCGSなど他の口腔内疾患との鑑別

前述の後ろ向き研究でも、覚醒下(無麻酔)の視診で歯周病の所見が確認できたのは全体の30%程度にとどまったのに対し、全身麻酔下でのX線検査では89%の症例で歯周病を示す放射線学的所見(水平性骨吸収など)が確認されており、視診だけでは歯周組織の破壊を大きく過小評価してしまうことが示されています。症例の約半数は飼い主から見て無症状と認識されていたにもかかわらず、麻酔下評価ではほとんどの症例で中等度〜重度の歯周炎が確認されており、「症状が軽そう」「まだ若いから」という理由で全身麻酔下での検査を省略しないことが重要です。

治療について

若年性歯周病の治療で飼い主の方に知っておいていただきたいのは、お薬(内科的治療)で歯周病そのものを治すことはできないという点です。実際に選択肢となるのは、大きく分けて次の2つです。

  • 歯磨きなどのホームケアによるプラークコントロール 
    歯周病の根本原因はプラーク(歯垢)です。歯肉炎の段階であれば、専門的なスケーリング(歯石除去)と並行して自宅での歯磨きを習慣化し、プラークを日常的に取り除けるかどうかが、炎症を抑えて進行を食い止められるかどうかを大きく左右します。当院では積極的な歯磨き指導を行なったいます。
  • 歯周組織が破壊された歯の抜歯 
    歯槽骨吸収が生じてしまった歯は、歯磨きや投薬だけではもう元に戻りません。前述の後ろ向き研究でも、27症例中22例でスケーリングに加えて選択的な抜歯が行われており、重度の症例では全顎抜歯が必要になったケースも報告されています。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や抗菌薬が炎症・痛みの緩和目的で使用されることもありますが、これらはあくまで対症療法であり、単独で歯周病を治せるものではありません。つまり、飼い主が実際に迫られる選択は「毎日の歯磨きなどのホームケアを続けられるか」「歯周組織が破壊された場合は抜歯」の2つが中心であり、投薬だけで完治を目指すという選択肢は基本的に存在しないということを理解しておくことが大切です。

生後9か月齢の若年性歯周炎と診断し抜歯を行なった猫の歯科レントゲン写真
生後9か月齢の猫の歯科レントゲン写真。左:重度の歯周炎により歯槽骨の著しい吸収が認められる。右:抜歯後の歯科レントゲン写真。

予後について

予後は、診断時点での進行度と、その後の管理体制に大きく左右されます。

  • 歯肉炎の段階で早期発見・浮介入できれば、適切なデンタルケアにより良好な予後が期待できます
  • 歯周炎まで進行し歯槽骨吸収が重度な場合は、罹患歯の予後は悪く抜歯が必要になることが多いです。全顎的に歯周炎が重度の場合は、全臼歯抜歯もしくは全顎抜歯w行うことで口腔内全体の状態は安定します。
  • 若年性歯周病は進行しやすい傾向があるため、一度の処置で終わりではなく、定期的な口腔内チェックと生涯にわたるホームケアの継続が予後を左右する最大の要因になります。
  • 当院では全身麻酔回数や基礎疾患を考慮して治療計画をたてています。

若年性歯周病は「見た目の炎症の程度と、実際の歯周組織破壊の程度が一致しないことがある」という点で、特に注意が必要な疾患群です。生後6ヶ月齢以降の子猫〜若齢猫の健康診断の際には、覚醒下の視診だけに頼らず、必要に応じて麻酔下でのデンタルX線検査を検討することが、早期発見・早期介入につながります。

若年性歯周炎の猫。全顎抜歯後3ヶ月後の口腔内写真
若年性歯周炎により全顎抜歯を行った1歳の猫。術後3か月の口腔内写真。歯肉の炎症は改善し、ドライフードも問題なく摂取できています。

参考資料

  1. Soltero-Rivera M, Vapniarsky N, Rivas IL, Arzi B. Clinical, radiographic and histopathologic features of early-onset gingivitis and periodontitis in cats (1997–2022). J Feline Med Surg. 2023;25(1):1098612X221148577.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36651926/
  2. Girard N, Servet E, Biourge V, et al. Periodontal health status in a colony of 109 cats. J Vet Dent. 2009;26(3):147–155.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19950514/
  3. Farcas N, Lommer MJ, Kass PH, et al. Dental radiographic findings in cats with chronic gingivostomatitis (2002–2012). J Am Vet Med Assoc. 2014;244(3):339–345. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24432966/
  4. Winer JN, Arzi B, Verstraete FJM. Therapeutic Management of Feline Chronic Gingivostomatitis: A Systematic Review of the Literature. Front Vet Sci. 2016;3:54. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27486584/

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