犬の鼻と口がつながる!?|犬の口腔鼻腔ろうの症状から治療まで獣医師が解説!
犬の鼻と口の間に穴が開く口腔鼻腔ろうという病気を知っていますか。
「愛犬が歳をとってから、くしゃみを繰り返したり、鼻水が出たりする」
このような場合、じつは歯のトラブルが鼻の症状につながっている可能性があります。
犬の口腔鼻腔ろうは口と鼻の間に穴ができる病気で、自然治癒することはありません。
今回は犬の口腔鼻腔ろうの症状や診断の重要性、治療方法までわかりやすく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬の歯の健康のために役立ててください。
犬の口腔鼻腔ろうとは
犬の口腔鼻腔ろうとは口腔と鼻腔の間に異常な穴が開き、両者がつながった状態です。
健康な状態では骨と粘膜によって口腔と鼻腔は隔てられています。
しかし何らかの原因によって、骨と粘膜が破壊されると穴が開いてしまいます。
犬の口腔鼻腔ろうの原因
犬の口腔鼻腔ろうの原因のほとんどは重度の歯周病です。
犬は歯磨きが適切にされていないと、歯の根元にすこしずつ歯垢や歯石が蓄積しますね。
この歯垢の中に存在する細菌が歯茎や粘膜に炎症を起こします。
この炎症により歯の周りの歯槽骨も少しずつ破壊され歯周病は徐々に進行していきます。
さらに歯周病が進むと、口腔と鼻腔を隔てる歯槽骨に穴が開き口腔鼻腔瘻が形成します。
とくに上顎の犬歯は鼻腔との距離が近く骨が薄いため、口腔鼻腔ろうを起こしやすいです。
口腔鼻腔ろうができると、歯だけではなく鼻腔にも炎症が起きてさまざまな症状が引き起こします。
口腔鼻腔ろうの原因として以下があげられます。
- 重度の歯周病
- 抜歯後の合併症
- 腫瘍
- 外傷
- 口蓋裂などの先天性口蓋欠損

犬の口腔鼻腔ろうはどんな犬に多い?
犬の口腔鼻腔ろうは高齢の小型犬に多く見られます。
ある報告では、口腔鼻腔ろうの犬の平均年齢は約11歳と高齢であることが示されています。
また小型犬の中でも特にミニチュアダックスフントは発症率が高いです。
歯周病のダックスは他の犬種の約3倍、口腔鼻腔ろうが起きていたことが報告されています。
犬の口腔鼻腔ろうの症状
犬の口腔鼻腔ろうは鼻腔と口腔がつながる穴ができるため、鼻炎の症状が見られます。
犬の口腔鼻腔ろうの代表的な症状は次のとおりです。
- くしゃみ
- 鼻水、膿性鼻汁
- 鼻血
- 鼻をこする・鼻を気にする
- 口臭の悪化
ただし口腔鼻腔ろうがあるにもかかわらず、症状がほとんど出ない犬もいます。
そのため歯周病が重度の犬では症状がなくても注意深く検査する必要があります。
犬の口腔鼻腔ろうの診断
犬の口腔鼻腔ろうの診断は、口腔と鼻腔がつながっていることを確認することで行います。
じつは口腔鼻腔ろうの症状があっても、腫瘍が原因である可能性もあります。
このため以下の複数の検査を組み合わせて正確に診断することが重要です。
- 歯科用レントゲン
- プロービング
- CT検査
- 通水試験
歯科用レントゲン
歯科用レントゲンは歯周病による骨の破壊を評価するための基本的な検査です。
歯科用レントゲンでは、一つ一つの歯と周囲の組織の状態を詳細に知ることができます。
とくに口腔鼻腔ろうの診断では、歯の根元に近い骨が溶けているかどうかが重要です。
歯の根元に近い骨が溶けて鼻腔と口腔がつながっていれば、口腔鼻腔ろうと診断できます。

口腔鼻腔ろうが多いのは犬歯ですが、他の歯でも発生することがあります。
このため歯科に精通した獣医師が注意深く検査することが大切ですね。
プロービング
プロービングは歯と歯茎の間にできた歯周ポケットの深さをみる検査です。
通常、プロービングでは歯周ポケットの底にプローブを先端が当たるまで差し込みます。
しかし口腔鼻腔ろうの場合は、プローブが歯周ポケットの底を貫通してしまいます。
これにより鼻腔と口腔が穴でつながっていることを確認することが可能です。
CT検査
CT検査は犬の口腔鼻腔ろうの診断に有用な検査の一つです。
CT検査では歯と、歯を支える歯槽骨の状態を立体的に確認することができます。
これにより歯槽骨が破壊されて、鼻腔と口腔がつながっているかどうかがわかります。
また高齢犬ではなるべくCTを撮り、鼻腔内や口腔内に腫瘍の有無を確認することが大切です。
通水試験
通水試験とは、口腔と鼻腔の交通(口腔鼻腔ろう)があるかどうかを確認するための検査です。
全身麻酔下で口腔鼻腔ろうが疑われる部位に生理食塩水を注入し、鼻腔から液体が出るかを観察します。
鼻孔から液体が確認されれば、口腔鼻腔ろうが存在すると判断します。
短時間で行えるシンプルな検査ですが、口腔鼻腔ろうの有無を確認するうえで重要な検査です。
犬の口腔鼻腔ろうの治療
犬の口腔鼻腔ろうは自然に塞がらないため、外科的な治療が必要です。
基本的な治療の流れは以下の通りです。
- 原因となっている歯の抜歯
- 抜歯窩の掻爬・洗浄
- 外科的な閉鎖(フラップ作成後に閉鎖)
原因となっている歯の抜歯
原因となっている歯の抜歯は口腔鼻腔ろうの治療において重要です。
口腔鼻腔ろうができる重度の歯周病では、歯の一部が溶けて吸収されることがあります。
このため炎症を治すためには悪くなった歯を抜歯することが必要です。

外科的な閉鎖
口腔鼻腔ろうを外科的に閉鎖することは治療のために重要です。
口腔鼻腔ろうの穴の中には蓄積した膿や汚れがあるため、入念に洗浄します。
そして周囲の粘膜でこの穴を覆って、吸収糸で縫合して終了です。
術後に縫合がほどけずに粘膜や歯茎が癒合すれば、口腔鼻腔ろうが閉鎖します。

術後ケアの重要性
口腔鼻腔ろうの手術では、術後のケアがとても大切です。
術後に犬が自分の前足で術部をかいたりすると、縫合がほどけることがあります。
このため必ずエリザベスカラーを犬に装着させて、術部が傷つくのを防ぎましょう。
そして数回の再診を通して、確実に口腔鼻腔ろうが閉鎖していることを確認しましょう。
一度縫合がほどけて穴が露出すると再手術が必要になるため、術後ケアは重要です。
まとめ
犬の口腔鼻腔ろうは、主に重度の歯周病によって口腔と鼻腔がつながる病気です。
犬の口腔鼻腔ろうは歯科用レントゲンなどの各種検査で確実な診断を行うことが重要です。
治療は抜歯と穴を閉じる手術を行い、術後ケアにより確実な術部の癒合を確認します。
今回の記事を参考にぜひ愛犬の歯の健康のために役立ててください。
福岡犬猫歯科&口腔外科では、歯科・口腔外科の専門的な診療を行っています。
愛犬の口腔鼻腔ろうなど歯や口の異常にお困りの際はぜひ提携動物病院までご相談ください。
引用
- B. L. Mulherin, et al. Diagnostic imaging of oronasal fistulas in a dachshund, 2016
- Christopher P. Sauvé, et al. Oronasal and Oroantral Fistulas Secondary to Periodontal Disease: A Retrospective Study Comparing the Prevalence Within Dachshunds and a Control Group, 2020
- Masao OGAWA, et al. A Retrospective Study of 56 Dogs with Oronasal Fistulas Associated with Periodontal Disease, 2017

