犬の含歯性嚢胞とは|埋伏歯を原因とする含歯性嚢胞の診断・治療と予防

犬の含歯性嚢胞。チワワの上顎犬歯を原因とする含歯性嚢胞の写真とタイトル

今回は、歯原性嚢胞に分類される疾患の一つである「含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)について解説します。含歯性嚢胞は決して頻繁に遭遇する疾患ではありませんが、若齢犬で診断されることが比較的多いという特徴があります。そのため、「まだ若いから大丈夫」「歯の病気は高齢になってから」という一般的なイメージとは異なり、成長期の犬でも注意が必要な歯科疾患の一つです

本記事では、

  • 含歯性嚢胞とはどのような疾患なのか
  • どのような犬に起こりやすいのか
  • 早期発見のために知っておきたいポイント
  • 治療が必要と判断される理由

について、飼い主様にも分かりやすく解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。

目次

犬の含歯性嚢胞とは|原因と予防について

含歯性嚢胞とは、顎骨の中に永久歯が埋伏したままとなり、その歯を取り囲むように嚢胞が形成される疾患のことです。この顎骨の中に埋伏した状態の歯を「埋伏歯(未萌出歯)」といいます。つまり、含歯性嚢胞の原因はこの埋伏歯です。

通常、犬では生後4か月齢前後から乳歯が抜け始め、永久歯が生えてきます。
この時期を過ぎても、はえてくるはずの永久歯が確認できない場合、埋伏歯の可能性があります。
過去の報告では、埋伏歯の約30%が含歯性嚢胞を形成していたとされており、決して放置してよい状態ではありません。

したがって、歯の生え変わりの時期(生後4〜6か月齢)は、こうした病気を未然に防ぐうえで非常に重要な時期であり、以下の点に問題がないか確認する必要があります。

  • 永久歯が正しくはえているか(歯の本数は正常か?)
  • 骨の中に歯が残っていないか

これらのポイントを確認することで、将来的に含歯性嚢胞の発生リスクを大きく下げることが可能です。
当院ではできるだけ早期に歯科レントゲン検査で埋伏歯の存在を確認し、状況に応じた治療選択肢の提示を行なっています。

避妊手術や去勢手術と同時に歯科レントゲン撮影・評価を行なっています

犬の避妊手術もしくは去勢手術を行なった際に歯科レントゲンを撮影した。萌出方向異常を原因とする埋伏歯の歯科レントゲン写真。
下顎第1前臼歯の埋伏歯(赤矢印)がみられます。避妊手術と同時に歯科レントゲン検査でこういった異常を早期に発見することが可能です。

含歯性嚢胞の主な発生部位

含歯性嚢胞は、主に以下の2種類の埋伏歯を原因として発生しやすいことが報告されています。

  • 下顎第一前臼歯
    複数の研究において、未萌出歯に関連する嚢胞の大部分が下顎第一前臼歯部で確認されています。
    下顎第一前臼歯は萌出方向異常による埋伏歯が生じやすい歯であり、その結果として含歯性嚢胞が発生しやすいことが知られています。ある報告では、含歯性嚢胞の約84%が下顎第一前臼歯を原因としていたとされています。
  • 犬歯(上顎・下顎
    下顎第一前臼歯に次いで、上顎および下顎の犬歯も含歯性嚢胞の発生に関与しやすい部位として報告されています。犬歯も萌出方向異常を引き起こしやすいたま埋伏を起こすことがあります。
犬の含歯性嚢胞の口腔内写真。上顎犬歯と下顎第一前臼歯を原因とする含歯性嚢胞(歯原性嚢胞)
左写真:チワワの上顎犬歯を原因とする含歯性嚢胞。 右写真:チワワの下顎第一前臼歯を原因とする含歯性嚢胞。

犬種との関連について

含歯性嚢胞は短頭種(ボクサー、パグ、シーズー、ボストン・テリアなど)に多く見られると報告されています。
その理由として、これらの犬種では、埋伏歯が生じやすい背景があるためと考えられています。

一方で当院では、これまでにチワワトイプードルにおける含歯性嚢胞の症例を多く経験しています。このように、文献上の報告と実際の臨床現場では、地域性や来院犬種の傾向によって差が生じている可能性があります。特定の犬種だから必ず発症する、あるいは発症しないというわけではありませんが、該当犬種ではより注意深い歯科検診が重要です。

含歯性嚢胞は問題になるのか

含歯性嚢胞は腫瘍性疾患ではありませんが、放置すると徐々に嚢胞が拡大し、
以下のような問題を引き起こす可能性があります。

  • 顎骨の菲薄化・破壊
  • 隣接歯の歯根吸収
  • 病的骨折
  • 感染を伴った場合に痛み

一般的に含歯性嚢胞は痛みがみられないことが多く、気づかれないまま徐々に進行していくケースが多いです。
できるだけ埋伏歯の存在の確認と、含歯性嚢胞(歯原性嚢胞)を疑う場合は早期の検査と治療が必要になります。

含歯性嚢胞の診断

含歯性嚢胞の診断は、臨床所見・画像検査・病理組織学的評価を組み合わせて行います。具体的には、以下の3点が重要です。最終的な確定診断は、病理結果と合わせて確定診断する必要があります。

  • 特徴的な波動感のある腫脹
    顎骨の膨隆として触知され、触診すると内部に液体を含むような波動感を認めることがあります。これは嚢胞性病変を疑う重要な臨床所見です。
  • 歯科X線検査による埋伏歯の確認
    歯科X線検査では、正常に萌出していない埋伏歯と、その埋伏歯を取り囲む歯槽骨の破壊が確認されます。肉眼的検査のみでは判断できないため、画像評価は診断に必須です。
  • 嚢胞壁の病理組織学的評価による腫瘍性疾患の除外
    外科的に摘出した嚢胞壁を病理組織学的に評価し、エナメル上皮腫などの腫瘍性疾患を除外することが重要です。これにより、最終的な確定診断が可能となります。
犬の含歯性嚢胞の歯科レントゲン写真。下顎犬歯の埋伏歯とそれに伴う含歯性嚢胞の所見。
下顎犬歯を原因とする含歯性嚢胞。右写真:下顎犬歯の埋伏を認めます(赤矢印)左写真:埋伏歯を中心に顎骨が破壊されています(赤矢頭)

含歯性嚢胞の治療

含歯性嚢胞の治療は、嚢胞の原因となっている埋伏歯の抜歯と、嚢胞壁を可能な限り完全に除去することです。
経過観察のみで自然に改善することはなく、外科的治療が必須となります。
また、内服薬などの内科的治療によって治癒することはありません。

手術後は、含歯性嚢胞によって薄くなった顎骨の状態を含め、

  • 顎骨の治癒状況
  • 嚢胞の再発の有無

を確認するため、定期的な診察および画像検査が必要となります。

下顎第一前臼歯を原因とする含歯性嚢胞

症例:2歳6ヶ月齢、チワワ
主訴:下顎歯肉の腫れ
検査:歯科レントゲン検査で左下顎第一前臼歯の埋伏を認めた。歯肉の腫れは波動感を伴っていました。
治療:埋伏歯の抜歯および嚢胞壁を可能な限り除去を実施しました。
病理検査:摘出した嚢胞壁の病理検査結果により、歯原性嚢胞と診断されました。
確定診断:臨床所見および病理検査結果より、下顎第一前臼歯を原因とする含歯性嚢胞と確定診断しました。

チワワの下顎第一前臼歯を原因とする含歯性嚢胞(歯原性嚢胞)の写真。歯科レントゲン写真では埋伏歯を認め、歯槽骨の破壊も確認できる
左写真:左下顎に波動感のある腫脹が触れる。右写真:歯科レントゲンでは下顎第一前臼歯の埋伏(*)と歯槽骨の破壊(赤矢頭)が観察された。
犬の埋伏歯の除去後の歯科レントゲン写真。嚢胞壁の除去後の写真。
左写真、右写真:埋伏歯の抜歯と嚢胞壁除去後のレントゲン写真。

コメント:明らかな痛みなどの症状は認められませんでしたが、飼い主様が歯肉の腫脹に早期に気づかれたことが診断につながりました。含歯性嚢胞により下顎骨は菲薄化しており、病的骨折のリスクがある状態です。そのため、日常生活においては顎に強い力が加わらないよう注意が必要です。

嚢胞のまとめ

本記事では、含歯性嚢胞を認めた場合の考え方や治療方針について説明してきました。
しかし本来、含歯性嚢胞は、若齢期に注意深く口腔内の評価を行い、埋伏歯に対して適切な治療を行うことで予防が可能な疾患です。
永久歯の萌出時期に歯の本数や歯列を確認し、画像検査を行うことで埋伏歯を早期に発見することが重要です。
この記事をお読みになった飼い主様には、生後6か月齢から1歳未満の時期に一度、子犬の歯科検診を受けることを強くおすすめします。
将来、含歯性嚢胞を発症し、外科手術が必要となる事態を避けるためにも、早期からの確認と対応を心がけましょう。

引用文献

  • Wigge’s Veterinary Dentistry Principles and Practice, Second Edition,WILEY Blackwell
  • Incidence of Radiographic Cystic Lesions Associated  With Unerupted Teeth in Dogs, J Vet Dent, 2016, 33(4) 226-233
  • A Clinical, Radiographic and Histological Study of Unerupted Teeth in Dogs and Cats: 73 Cases (2001-2018), Front Vet Sci, 2019, 8:6:357
  • Clinical and histopathological study of 279 dentigerous cysts in 192 dogs (2012-2022), Senni Vesterinen et al. Front Vet Sci, 2024, 23;11:1412089
犬の含歯性嚢胞。チワワの上顎犬歯を原因とする含歯性嚢胞の写真とタイトル

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